[株式会社グリーンファーマシー 代表取締役] 村野賢一郎氏


2018年現在、日本全国には約58,000店の調剤薬局が存在している。この数はコンビニエンスストアの約56,000店を凌ぐ膨大な数字だ。

店舗数から考えても、調剤薬局は日本の医療を支えるインフラの1つとして完全に根付いたといえるだろう。各地に点在する薬局はそれぞれが地域医療を支える担い手として活躍しているのは間違いない。

厚生労働省が2025年を目処に整備を進めている「地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)」では、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい人生を全うできる社会体制の構築が求められている。しかし、現時点でこの要望に完璧に応えられている地域は限定されているのが実情だ。

一般的に、地域包括ケアシステムでは「病院」を中心とした医療機関の医師が主導となって実行されていることが多い。「薬局」および薬剤師が旗振り役となって積極的なアプローチが実施されるケースはあまり存在しない。

しかし、東京都・西東京市を中心に、20店舗の薬局を展開している株式会社グリーンファーマシーは、薬局が地域包括ケアシステムに積極的に関わることを推進している。今回は同社の代表取締役である村野賢一郎氏にその具体的な取り組みや運営方針について話を聞いた。


薬局は、地域医療の現場をもっと知るべき

—最初に株式会社グリーンファーマシーについて教えて下さい。

グリーンファーマシー 村野賢一郎株式会社グリーンファーマシー
代表取締役
村野賢一郎(むらのけんいちろう)

グリーンファーマシーは西東京市にある中規模の調剤薬局チェーンです。20店舗の薬局を東京都西部中心に展開しています。

私の父であり、創業者でもある村野光司が当社の前身となる「村野調剤薬局株式会社」を昭和50年5月に立ち上げ、設立から42年が経過した2017年に、社名を「株式会社グリーンファーマシー」と改め、私は、創業者であった両親より事業を継承し代表取締役に就任しました。

村野調剤薬局株式会社は、創業当初より、「患者様に薬に関する適正な情報を提供すること。患者様の健康を支援し、いつでも頼られる“かかりつけ薬局”であること。そして、事業を通じて、会社に属する全社員の生活の安定と向上を実現すること」を理想に掲げ、42年間、調剤薬局を経営してきました。

私は父および歴代の薬剤師の方々が築きあげてきた信頼と実績を受け継ぎ、さらなる夢を実現するために日々業務に取り組んでいます。

—村野さんは最近になって代表取締役に就任されたとのことですが、それまでは何をされていたのですか?

私は最初からグリーンファーマシー(村野調剤薬局)に勤務していた訳ではありません。東京慈恵会医科大学の医学部を卒業し、「ガン患者が苦しむことなく最後を迎えるための、緩和医療に関わりたい」という思いから、麻酔医として都立病院に勤務していました。

その後、訪問診療中心の診療所に転籍し、患者様の自宅をまわりながら訪問診療がメインの医師として長らく活動していました。最近になって両親の年齢のこともあり、実家に戻って薬局の経営を任された形です。そのため、私自身は薬剤師の国家資格を持っているわけではありません。薬剤師の免許を取得した後に調剤薬局を開業された方とは根本的に異なります。私が薬局チェーンを経営しているのは、元々の医者というバックグラウンドからすると少し畑違いですが、医療機関の現場で薬局・薬剤師とは間接的に関わっていましたので、そこまで違和感はありませんね。

—なるほど。ありがとうございます。村野代表は、医師としてもご活躍されていたのですね。医師としての勤務経験もある薬局の経営者として、現在の調剤薬局を取り巻く環境をどう感じていらっしゃいますか?

私が昨今感じていることは大きく2つあります。
ひとつは、年々調剤薬局に非常に細やかな対応を行う店舗運営が求められていることです。

2015年に厚生労働省が示した「患者のための薬局ビジョン」、そして、2016年に行われた調剤報酬改定で、調剤薬局は大きな転換を迫られました。診療加算を受けるためには「かかりつけ薬局」への対応が求められますし、加えて「積極的な在宅医療への介入」「患者の薬にまつわる情報の一元管理」など、非常に細やかな店舗オペレーションの構築が要求されています。一言で言えば、「ただ調剤して処方するだけの調剤薬局から脱却すること」を実現しなくてはいけません。

もうひとつは、多くの薬局で働く薬剤師が、地域医療をサポートする医療従事者であるにも関わらず、実際の地域医療の現場を知らない現実があるという点です。
私は薬局経営をする傍ら、医師として訪問診療で、地域の医療現場に出ることがあります。その現場で薬剤師と連携する際に、薬剤師が在宅医療について熟考していないことが少なくありません。

例えば、私が訪問診療で患者さんの自宅に行き、処方箋を作成します。そして、後日、薬剤師から薬と報告書を受け取り、患者さんに届けに行くのですが、この時に受け取る薬剤師が作成した書類の内容が、実際の現場では役立たないことが非常に多いのです。

処方箋を書いたのが私なので、どの薬を患者さんに処方したかは分かりきった事実なのに「この薬が処方されています」とだけ記録がされていたり、「副作用はありません。」と極めて限定的な事実だけしか書かれていないことが少なくありません。その割に、不必要な項目が過剰に書き込まれている・・・。結局、薬剤師が出した情報が、在宅医療、訪問診療の現場で意味をなして無いのです。

実際、医師が求める薬剤、薬歴の情報はもっと別のところにあります。

「誰が」「どこで」「どのように」「どんな入れ物」で薬を管理・保管しているのか。また、その薬は「どのような薬で」「いつの時点で」「どのくらいの量」が患者に提供されたのか。薬が提供された後、「どのくらいの量」を患者が服用し、服用後、「どのような変化」があったのか。こうした定量的・定性的な客観的事実を医師は求めています。これらの情報があれば、医師は、訪問診療の現場で薬を使った医療行為を円滑に行うことができ、患者の負担も大幅に減らすことができるのです。

患者さんの実情、そして、その患者と直接触れる医師が実際何を考えているのかを常に想定・把握し、薬剤師として何ができるのか常に考えることが重要です。在宅医療に取り組む薬局は所属する薬剤師にその姿勢についてしっかりと教育をしなくてはなりません。地域医療の主体として、医療現場の実際を客観的に見る視点が、薬剤師および薬局に要求されているのだと私は感じています。

グリーンファーマシー 薬剤・薬歴情報 管理シート同社が実際にしようしている報告書フォーマット
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例えば、グリーンファーマシーでは、医療現場で役立つ薬剤・薬歴情報を一枚にまとめ、ひと目で詳細を把握できる独自のフォーマットを作成し、その書類作成を店舗運営のオペレーションの中に組み込んでいます。

こうした小さな取り組みが、地域医療の中における薬局・薬剤師の存在感に繋がり、本当の意味で、薬局・薬剤師が地域の医療に貢献していると言い切れる状態に繋がっていくと考えています。

薬局を、“地域の健康ステーション”にする

—厚生労働省からの要請対応以外で御社独自で取り組まれていることはありますか?

グリーンファーマシー 村野賢一郎

まだ展開を始めたばかりではありますが、グリーンファーマシーでは東京都・小平市にある薬局を、「カフェ併設型薬局」にリニューアルし、再オープンしました。

非常にゆったりしたスペースで、誰もが落ち着ける空間となっています。利用者は安価で飲み物を飲むことができ、薬剤師とリラックスした雰囲気のもとでコミュニケーションが可能です。

薬局にカフェを併設した目的には、「カフェの近隣地域に住んでいる認知症の患者さんが働き、活躍できる場所」「認知症の介護をしている方の憩いの場所」を地域住民に提供し、住民の皆様の健康増進に貢献するというものも含まれています

私は、医師として訪問診療の現場で数々の認知症の患者を診てきました。同時に、認知症の患者を支える方々とも多数触れ合う機会がありました。早期の認知症の方は、問題なく仕事を行うことができるにも関わらず、社会的に「働くことができる場所」が用意されていません。経済活動に加わる機会を無くし、認知症がより進行するという悲しい現実がそこにはありました、

また、認知症の介護をされている方も、介護が原因で自身の仕事を辞めざるを得なかったり、長期間におよぶ終わりのない介護生活の影響で大きな精神的ストレスがかかり、健康を害してしまうことが散見されました。

こうした状況を鑑みた時、認知症患者の方々には、「働くことができ、自分が社会の中でしっかりと役割を担えていることを実感できる場所」、介護する方々には、「ゆっくりくつろぐ場所」が必要だという結論に至りました。

私が経営するグリーンファーマシーが薬局としてできることを検討した結果、カフェという空間・場所・コミュニティを調剤薬局に併設させれば、それぞれの立場の人の健康促進に貢献できると確信し設立したしだいです。
開店してからまだ間もないですが、既に毎日十数名の方が利用してくださっています。
カフェ併設型薬局は、「かかりつけ薬局化」へ対応する以外に、私なりに「脱・調剤薬局」を実現した一つの例だと言えると思います。現在は、このカフェ併設型薬局が、街の健康を支える中心的なコミュニティスペースになることを目標に、日々改善を行っています。

従来よりもオープンなマネジメントで、新しい薬局づくりに挑戦する

—調剤薬局チェーンとして非常にユニークな取り組みをされている御社ですが、社内のマネジメントとして工夫されていることはありますか?

グリーンファーマシー 村野賢一郎

大きな工夫としては、2つあります。

ひとつは、「薬剤師としてやるべき仕事とそうではない仕事」というものをきっちりと分け、薬剤師が薬剤師本来の仕事に集中できる環境を整えることです。

私が代表に就任した当時、弊社の現場をよく観察すると、薬剤師が本来やらなくても良い仕事を、薬剤師が担ってしまっていることがとても多い状況でした。

特に「薬剤師業務+マネジメント業務」の2つを任されていた薬剤師は、どうしても業務過多になり、どちらの業務の生産性も低下していました。また、過酷な就労環境がストレスを発生させ、離職が頻発し、結果的に採用コストが膨れ上がるという悪循環に陥ってもいました。

そこで弊社では、薬剤師は薬剤師の専門性を活かす業務に専念させ、マネジメント業務は別の人材でまかなう体制を再構築し始めました。その甲斐あって先に説明した問題は解消に向かっています。もちろん、マネジメント業務にも興味があり、より意欲的に働きたいという薬剤師は従来通りそれらを兼務できる体制となっており、取り組む業務内容の詳細は従業員に主体的に選択させるようにはしています。

また、選択してもらったそれぞれの役割において、多くの権限委譲をすることも始めています。自分だけが決済者、担当者ではなくなるというこの権限委譲の制度は、よりストレスフリーな職場環境をもたらしています。今はそれぞれが互いの自身の業務に集中でき、組織として強みが増したと思います。

ただ、業務の分化が進みすぎると、社員ならば誰もがやるべき業務が行われなくなるという負の側面も考えなくてはなりません。例えば、「職場の清掃」などです。

私は、このような状況を回避するためには、社員ひとりひとりが「自助・互助」の心構えを持つことが重要と考えており、社員の人格向上を目指した社内研修も導入しています。

社員がそれぞれの役割に集中しながらも、相互が助け合うバランスの良い組織体制の構築は、私が薬局経営者として常に意識し続けているテーマです。
 
もう1つは「薬剤師以外の人材採用」です。既に申し上げてきたように、これからの薬局は「脱・調剤薬局」を志向していかなければなりません。私は、これからの薬局の発展を考えた時、従来の調剤に関わる業務に加え、調剤業務の効率化を推進する業務、新しい薬局経営の指針・方針を考える業務がとても重要になると考えています。

薬剤師の採用だけに偏ると、どうしても会社全体として、薬剤・薬局のことだけを考える狭い視野に陥ってしまい、「調剤薬局」の枠組みから抜け出すことができません。そうすると、この先の経営が大きく行き詰ってしまう可能性が高いと予測しています。

そこで、例えばシステム管理ができる人材、財務諸表をもとに経営戦略を立てられる人材、薬局とのシナジーをもたらす事業提携先を開拓できる人材など、脱・調剤薬局を実現できる、今まで普通なら薬局に就職しなかった人材の採用を進めています。

総合的に弊社のマネジメントを言語化するのならば「オープンなマネジメント」です。

旧来の調剤薬局経営にこだわらず、認知症患者・地域住民に開かれたカフェ併設型のオープンな店舗展開をおこなう。細分化された業務・役割よりも、よりオープンな枠組みで権限移譲を行う。薬剤師以外のスキルを持った人材を登用する、オープンな採用を行う。全てにおいて開かれているのが特徴です。

この指針に基づいて、新しい薬局づくりに挑戦したいと考えています。

地域に貢献する薬局=地域医療のコーディネーター

—現在、厚生労働省は薬局経営者に対して実に様々なことを要求しています。村野社長はこの状況を踏まえた上で、今後、どのようにグリーンファーマシーをマネジメントされるご予定ですか?

グリーンファーマシー 村野賢一郎

私は『地域医療をコーディネートする薬局になること』を目標に経営を続けたいと考えています。

私は薬局の経営者であると共に医師でもあります。いわゆる二足のわらじ状態です。

このような環境のもと、地域医療に日々向き合う中で、痛切に感じていることがあります。

それは、「地域の医療に貢献する=地域住民の生活そのものに入り込んでいく必要がある」ということです。

インタビューの冒頭でお話したように、例えば薬局およびそこで働く薬剤師は、「どんな薬が、どのくらいの量、どのような形式の入れ物に入っていて、誰がそれを管理しているのか」を把握するレベルまで地域住民の生活に入り込んで行かなければ、地域医療に貢献することはできません。

私は、患者様や地域住民の生活に円滑に入り込んでいくためには、地域住民の日々の生活に密着した「衣・食・住・健康」のサービスを提供する多種多様な企業との連携が不可欠であると考えています。
また、様々な企業と連携をしていくためには、薬局が主体的・能動的にアクションを起こす必要があります。ただ待っているだけでは状況は好転しません。地域医療のことを誰よりも考え、自発的に動き、最適な地域医療の形をコーディネートし、提案していく姿勢が薬局には必要だと思っています。

グリーンファーマシーは、前身の「村野調剤薬局株式会社」を含め、約42年間、東京都・西東京市の地域・街に根付いて経営をしてきました。これからも、変わらずこの地域の医療と向き合い、どこよりも主体的に活動しつづけ、最適な地域医療の形をコーディネートできる、そんな薬局を目指し、日々邁進をしていきたいと考えています。

【代表取締役プロフィール】

村野賢一郎(むらのけんいちろう)

東京都西東京市生まれ。東京慈恵会医科大学を卒業後、麻酔医として、医療現場の最前線で活躍。現在も、関東圏を中心に訪問医療に従事し、地域医療の最前線で活躍している。平成29年に株式会社グリーンファーマシーの前身となる村野調剤薬局株式会社が企業名を変更するに伴い、事業を継承し、同代表に就任。医者、薬局の経営者という2つの視点から、「患者の健康に必要なことはなにか」を追求し、「新しい薬局のあり方」創造に日夜挑戦している。

【企業プロフィール】

企業名 株式会社グリーンファーマシー
設立
  • 2017年
  • (※同社前身の村野調剤薬局株式会社は昭和50年5月に設立)
資本金 3000万円
従業員数 170名
事業所 東京都、神奈川県、山梨県、埼玉県
関連会社
  • 株式会社ワコー
  • 有限会社白十字ファーマシー
  • 有限会社ムラノ医療事務センター
会社URL http://www.green-ph.co.jp/