[有限会社 みつわ薬局 取締役] 岡澤英明氏


創業期から社長の片腕として、6店舗の新規開業に関わってきた岡澤氏。中小チェーン薬局の成長過程の酸いも甘いも経験した氏の話は実に生々しい。大手の部門長クラスだって、個店の2代目だって、中小の幹部社員だって、時に社長や先代とぶつかったり、考えが合わなかったりすることも長く勤めていればあることだ。むしろイエスマンでは片腕は務まらない。経営トップの言うことにうなずくだけでは、そのトップをミスリードさせてしまうこともある。片腕だからこそ意見をぶつけ、ともに悩む姿勢が必要だろう。
上に対しては衝突も恐れない岡澤氏だが、現場スタッフには細やかな気遣いのできる男だ。忙しい店舗にヘルプに来てもらったスタッフに気持ちよく働いてほしいとの想いから、その店舗のスタッフと共におもてなしをするそうだ。プリン買ったりなんてことも。小さな会社だからこそ、みんなで力を合わせて気持ち良く仕事をする、そのためにはちょっとした心配りが重要だと語る。
今回は、会社とともに歩んだ“人”にフォーカスして取材した。


新店立ち上げは大変。でも、ゼロから自分の手で作り上げる充実感がある。

—岡澤さんのご略歴を教えてください。

地元は千葉の茂原市ですが、大学は東北薬科大学(現:東北医科薬科大学)です。兄も在学していたので一人暮らしするには何かと好都合でした。卒後は製薬メーカーでMRを3年ほどやっていました。大手企業を見てみたいという気持ちもあってメーカーに行きました。当時はMR認定試験が導入されたころでした。この試験によって社内の力関係が妙なことになりましたね。薬学部出身者にとっては結構簡単な試験でしたが、先輩社員たちにとっては難問だったようで、薬学部や農学部出身の若手に自分たちのポジションが危ぶまれるという危機感やちょっと気に入らないという気持ちもあったのではないかと思います。また、メーカーですから当然ノルマもあって、そんな状況が自分の性格に合わなかったんだと思いますが、3年で退職して、薬局に転職しました。仙台で2ヶ所の薬局を経験しました。最初の薬局の経営者は非薬剤師、2ヶ所目は薬剤師社長で、医療や薬剤師教育に対する考え方のコントラストがありましたね。そうこうしているうちに、地元千葉から薬局立ち上げのお声がかかり、今の会社に移りました。

—今の会社での経緯をお聞かせください。

仙台の薬局ではトータルで4年ぐらい務めていましたが、最終的にはエリアマネージャの役目を担っていて、新しいフィールドでもっと自分の力を試してみたいという気持ちがありましたね。ゼロから薬局を立ち上げるという経験をしてみたいという気持ちです。ですが、結果的にそれは若さゆえの思い上がりだと気が付きました(笑)。まだ31歳でしたから。
当社の1号店は成田赤十字病院の門前で、すでに薬局は出来上がっていました。そこにポンと投入されて、薬の仕入れから、薬剤師の採用、店づくりのすべてを文字通りゼロからやりました。0を1にする経験はありませんでしたから、それは言うほど簡単ではありませんでした。本当に休みも取れないぐらい忙しかったですね。でも、自分の手で作り上げているという充実感はありました。その後1年も経たずに横芝光町に2号店立ち上げの話が出て、そちらへ異動しました。それからは2年ごとぐらいに新店がオープンして、そのたびに立ち上げと基盤作りに関わってきました。

—現在は6店舗ですが、今後も店舗展開はしていく予定ですか?

はい。平成13年に1号店ができて、平成20年ぐらいまでに6店舗まで成長しました。この記事が掲載されるころには7店舗目が出来上がっていると思います。今後も可能な限り店舗は増やしていくつもりです。

社長と意見がぶつかることも。辞めようと思ったこともある。

—まさに御社の礎を岡澤さんが築いてきたわけですね。

みつわ薬局

そうですね、怒涛の勢いでもう16年も務めていますね。でも、途中で辞めようと思ったこともあります。従業員が増えていき、会社としての体裁を整えるために就業規則などの整備に取り掛かった時期がありました。しかし、社長との合意形成がうまくいきませんでした。現場を知る私の目から見て、もっとこういう制度にすべきだ、もっとこういうルールにしないとスタッフのモチベーションが下がってしまうなどといった私見と社長の考えとの折り合いがつかないことがありました。1号店からずっと私が現場を支えてきたという自負があったんでしょうね。自分が現場のことをよくわかっているから自分の意見が正しいという、これもまた思い上がりだったのかもしれません。また、独立も考えることもありましたから、退職・独立開業という選択肢が頭をよぎった時期もありましたね。

—社長とぶつかることもあったんですね。

社長は薬剤師ではないので、何かと相談はされます。頼られているのはうれしいのですが、現場を代表して意見を言わなければならないときもあります。
患者さんや処方医からの信頼を得て、地域に貢献できる薬局を目指す。小さなチェーン薬局だから、大それたことはできないし、個の力はまだまだ弱い。だから地元の薬剤師会にも顔を出して、地域の方向性に乗るべき・・・などといった話を理解してもらうために、創業時に議論を交わしたことがありましたね。

今日も仕事をがんばろうという気持ちで家を出てほしい。

—どんな会社にしていきたいですか?

みつわ薬局

「明日からまた仕事かぁ」という日曜夜の憂鬱な気持ちを取り払いたい!(笑)。家を出るときに「今日も一日がんばろう」という気持ちで職場に向かいたいですよね。従業員あっての現場ですからね、やる気に満ちて生き生きと仕事をしてもらいたいと思っています。ですが、そのための取り組みには頭を悩ませています。社員旅行を企画したり、ゴルフ部を作って活動したり、忘年会や新年会とかも。でも、こういうレクレーションは長続きしないし、これだけでは会社は一枚岩にはならない。どこの会社も抱えている問題かもしれませんね。
少なくとも私自身が明るく楽しく仕事しようと努めています。そしてなるべくスタッフとのコミュニケーションを取るようにしています。言いたいことがいえない職場って、やっぱり雰囲気よくないですよね。ちょっとした悩みをすぐに相談できる風土があるとリスク回避もしやすいですから。

—今後の課題は何ですか?

若手育成です。実は近々茨城の方で新店がオープンします。これまでは私が立ち上げに関わってきましたが、この店舗からは若手に任せる予定です。自分の仕事を若手に任せることで、将来の会社の屋台骨が育つし、彼ら彼女らのモチベーションも上がります。次の新店を担当する30代の男性薬剤師も張り切っています。彼を見ていると自分の30代を思い出しますね。こんなふうにガツガツしていたのかなと思うとちょっと照れ臭い(笑)。
2、3年前に顧客満足度調査を実施したことがあります。来局患者さんに封書をお渡しして、アンケートに回答していただきました。決して数は多くありませんが、集まったご意見やご要望を店舗改善やスタッフの行動改善に生かしています。顧客の声に耳を傾けていれば、少なくとも間違った方向には進んでいないだろうと思っています。また調査を実施したいと思っています。
そして月並みですが、マンパワー不足の解消ですね。ギリギリの人数でこなしていますから、まずは採用力強化。中途採用が多いですが、新卒採用にも力を入れていきます。薬剤師が増えてもう少し余裕が出てきたら、人材育成にもっと力を入れたいと思っています。

【取締役プロフィール】

岡澤 英明(おかざわ・ひであき)

大学卒業後、製薬メーカー、薬局勤務を経て有限会社みつわへ。極真空手で鍛えた肉体と精神で6店舗を切り盛りする。現在は、ランニング、フィットネスジム、ゴルフが趣味。

【企業プロフィール】

企業名 有限会社みつわ薬局
設立 2001年1月
資本金 500万円
売上 15億円
従業員数 約33名
事業所 千葉県成田市