[株式会社ノムラ薬局 代表取締役] 古田智裕氏


国内には約58,000店の調剤薬局が存在している。店舗数で比較すると、コンビニエンスストアの約56,000店を凌いでいる。(2018年時点)

各地に点在する調剤薬局は日本の医療を支える重要な立場となっているといえるだろう。そのため、厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」を示し、それぞれの薬局が地域医療を支える担い手として活躍することを求めていると考えられる。

かかりつけ薬局や在宅医療などのキーワードが報道されて徐々に世の中で認知されるようになっているものの、依然として薬局のイメージは「処方箋を持って行くところ」という認識が多数派だ。

確かに、薬局は薬を調剤するところであるが、中には地域のためを思って、活躍している薬局が多く存在する。今回取材させていただいた株式会社ノムラ薬局もそのような薬局の一つだ。どのような取り組みをされていて、今後の薬局像をどのように考えているのか、代表取締役の古田智裕氏にお話をお聞きしてきた。


日野市では「在宅はノムラ薬局」と呼ばれる

—株式会社ノムラ薬局について簡単にご紹介してください

株式会社ノムラ薬局は、1976年に東京都日野市に1号店を開店し、現在18店舗(2018年7月時点)を展開しています。創業時は薬屋でしたが、90年代の医薬分業の進展とともに調剤薬局にシフトしてきました。さらに、2000年ごろから在宅医療に力を入れはじめ、日野市では「在宅はノムラ薬局」と認識されるようになりました。

「親切・便利・安心、お役にたちます」を理念として掲げ、地域密着型の薬局を運営することを心がけています。これからは少子高齢化が進む時代ですが、幼い子供から働く世代、高齢者まで、健康な状態で暮らせる社会をサポートしていきたいと考えています。地域の方々が病気や症状で困った際に「あの店のあの人に聞いてみよう」と思っていただけるような存在を目指して、日々研鑽しています。

—ノムラ薬局の強みである在宅医療に取り組む上でどのような点が重要だとお考えですか

株式会社ノムラ薬局 代表取締役 古田智裕

薬局として在宅医療に関わる上で、在宅医やケアマネージャーなど他職種との良好な関係を築くことが最も重要だと思います。ノムラ薬局が在宅医療を始めた時期を振り返ると、在宅医療の推進を担当した社員がたまたま元MRであり、在宅医との関係を主体的に開拓していったことが大きかったです。そのおかげで、在宅医から「ぜひノムラ薬局さんにやってほしい」とお声をかけていただける関係になっています。

また、在宅医療の事業持続性も重要なポイントになります。診療報酬の加点により在宅医療に力を入れている薬局が増えているとは思いますが、薬局における在宅医療の成長が一段落した後には診療報酬の減点も予想されます。事業として収益性を維持するために生産性の向上が大きな課題であると感じています。

そのように感じるのは、在宅部門がイノベーション曲線における成長期の後半に差し掛かりつつあり、どのように事業として継続させるかを考えている状況にあるからです。薬局で調剤や服薬指導に追われているので、在宅医療に関われる薬剤師の数も限られている中で、非常に頭を悩ませています。

薬剤師に本来の専門性を発揮させたい

—具体的な解決方法として何か考えていることはございますか

在宅医療に関わらず、薬剤師は常に「患者さんの求めていることをできるだけ早くて正確に行わなければならない」というプレッシャーの中で日々仕事をしています。そのため、本来医療人として患者の健康全般を気にすべきなのに対して、処方薬を渡すだけになってしまっているケースがほとんどです。

薬剤師が医療人としてあるべき姿を取り戻すためには、薬剤師をプレッシャーから開放することが一つの解決方法だと思っています。そうすることで、在宅医療等を通して処方薬を渡した患者に対して幅広い気配りをすることができるようになると考えています。

具体的な方法としては、薬剤師ではない事務員の方の業務範囲の拡大です。その点に関しては反対する方もいますが、私の所属する日本在宅薬学会など、在宅の分野では在宅医療を継続されるには事務員の業務拡大は不可欠であるという考えが主流になりつつあります。厚生労働省や保健所の判断を確認しながら、進められる部分から徐々に進めていきたいと考えています。

—今後の薬局経営でキーワードと考えているものはございますか

薬剤師は何かしらの病気や症状を抱えた患者に対して服薬治療を通して関わってきました。しかし、医療においては治療と同じくらい「予防」ということが重要だと認識されています。

今の薬局のあり方では「予防」に関わることは非常に難しいですが、地域の方々の健康に関わる薬局になっていくためには「予防」は無視できないキーワードです。現段階では、どのように「予防」を薬局で実現していくのかを模索しています。いずれ医療人として地域住民の健康に予防から在宅での終末期まで責任をもって関わる薬局を作り上げて、次世代にバトンを渡したいと考えています。

【代表取締役プロフィール】

古田智裕(ふるたともひろ)

薬剤師。大学卒業後、ノムラ薬局に就職し、店舗長やエリア長、薬局長を務めてきた。社長選抜プロジェクトを経て、2017年に代表取締役に40歳で就任。ノムラ薬局の理念「親切・便利・安心、お役にたちます」を常に意識し、地域住民の健康をサポートするための薬局を模索する挑戦をしている。

【企業プロフィール】

企業名 株式会社ノムラ薬局
設立 1976年4月
資本金 1000万円
従業員数 104名
事業所
  • 東京都日野市(9店舗)
  • 東京都八王子市(7店舗)
  • 東京都国分寺市(1店舗)
  • 東京都多摩市(1店舗)
調剤とOTCの比率 調剤 : OTC = 93 : 7
会社URL http://www.nomura-ph.co.jp/