[株式会社メディック 代表取締役] 三好幸利 氏
2025年までに、全ての薬局が「かかりつけ薬局」の機能を持っている状態を目指す。
厚生労働省は、「患者のための薬局ビジョン(2015年提唱)」の中で、この方針を明記した。
この方針により、各薬局は大きく3つの機能を自社に導入していくことを求められている。3つの機能とは、「服薬情報の一元的・継続的把握」・「24時間対応・在宅対応」・「医療機関との連携」である。3つの機能を備え、その役割を果たしていくためには、薬局及び薬剤師が患者と継続的に、密に接して行く行動が必要となってくる。
患者と密に接する機会を増やすためには、薬局が積極的にアクションを起こしていかなければならない。これまでのように、処方箋を持ってきた患者へ薬を提供するといった調剤メインの画一的なサービス提供だけではなく、直接患者の自宅に足を運び、服薬管理・指導・経過観測を行うことや、地域イベントでの積極的な情報発信が求められる。
2025年に約800万人の団塊世代が後期高齢者となり、全ての患者が医療施設での治療・介護を受けることが困難になっていく状況を考えれば、特に「在宅への対応」は薬局にとって重要かつ緊急な課題と言える。
しかし、処方箋を持って来店する患者に対し、正確かつ迅速に薬を提供するという業務に対応しながら、在宅患者へ服薬指導・管理・経過観察を行なっていくには、非常にマンパワーがかかる。これらの業務を円滑に行なって行くためには、マンパワーをいかに分散し、社内連携を図りながら対応していくかということが重要となるだろう。
この社内連携を円滑に行うことで薬局全体としての提供価値を高め、様々な医療機関から「在宅医療業務」の依頼が絶えなくなり、積極的に在宅医療に取り組んでいる薬局がある。
東京の城南地区を中心に6店舗の薬局を展開している株式会社メディックは、自社が営業活動をせずとも在宅医療業務の依頼が自然と舞い込み、そこで働く従業員も、精力的に在宅医療の業務に取り組むようになっているという。
その理由について、同社の代表取締役である三好幸利氏に聞いた。
「在宅医療」=たすきをつなぐチーム作りがベースである。
—最初に株式会社メディックについて教えて下さい。

株式会社メディックは、東京・城南地区にある中規模の調剤薬局チェーンです。2000年に、東京都大田区にある総合病院「東急病院」の門前薬局として第1号店をオープンし、現在は全6店舗を経営しています。社員と共に、「街のかかりつけ薬局No,1」になることを目標に、地域に住む患者様にどのように寄り添えるか、どんな価値を提供できるかを日夜模索しております。各店舗の近くにあるクリニックのドクターとも積極的に連携し、患者様の症状を改善する薬を提供することはもちろんのこと、未病の方の健康増進を目指した、オリジナルサプリメントの通販サービス「ニコニコファーム」の展開、毎月第2木曜日に地域の方が交流するためのカフェ「オレンジカフェ」の開設など、多方面に渡る健康支援サービスを提供しています。
そして、現在最も注力をしているのが在宅医療サービスです。2018年の今年は、在宅医療サービスをさらに拡充すべく、社内体制を一新しました。個人宅と施設それぞれの、在宅医療専門チームを組む、事業部制を導入しました。体制構築の効果もあり、現在では、薬剤師一人当たり約7件から14件の個人宅患者担当するようになりました。また、施設向けの在宅医療サービスの導入依頼も、立て続けに頂くようになりました。ほとんどは、当社から営業活動を行うという形ではなく、ケアマネージャー様・地域のドクターから依頼を受ける形となっています。
—ありがとうございます。現在、2025年の超高齢化社会に向けて、御社のように在宅医療に積極的に関わって行こうと考える薬局も増えていると思います。御社の場合、自社で営業活動をせずとも依頼が舞い込んでくるとのことですが、その理由はどこにあるとお考えでしょうか。
いろいろな理由があると思いますが、ひとつ挙げるとすれば、「たすきをつなぐ社内チーム作り」を念頭に置いたことで、薬局としてのアプトプットが向上したということが言えると思います。
在宅医療に本格的に取り組もうとすると、現時点では、現場の薬剤師が数多くの業務を行うことになります。例えば、在宅患者に対し、24時間いつでも薬学的管理や服薬指導を行うことが求められます。薬剤師が自らの勤務時間以外でも対応することも出てきます。当然、店頭で調剤を提供する業務もありますので、薬剤師個人にかかる業務負荷は非常に大きいのが現状です。これをそのまま、「一人の薬剤師が行うことだ」という前提で経営をすれば、薬剤師個人のひとつひとつの業務のクオリティが下がるだけでなく、「働きがい」や「働きやすさ」を感じることができずに、疲弊していってしまいます。
そこで当社では、「たすくをつなぐ」をテーマに社内での連携が生まれる工夫を行なっています。例えば、会社主導で「ランチMTG制度」を導入しています。これは、会社が昼食代を全額負担し、その時間を社員同士のコミュニケーションの時間に当ててもらうという制度です。これにより、薬剤師個人が悩んでいることが社員同士で共有され、その課題や悩みをチームで解決するということが行われるようになりました。誰がどんな患者様を担当し、どんな問題が起きているのかが情報共有され、時にはその場で不安や悩みが解消します。
また、独自のLINEグループを作成し、こまめな情報共有を図っています。この情報共有により、患者様を複数人で対応することができます。個人の業務を分担することが可能になったので、社員は休日を安心して休むことができるようになりました。
これらの密なコミュニケーションの繰り返しにより、一体感が生まれ、日々起こる課題を「たすきをつなぐ」ように解決することができるようになりました。
こうして薬剤師個人の生産性が上がり、チームで知識が共有され、総じて「メディック」全体として提供できる付加価値が向上しました。メディックの社員一人一人が行う、小さな活動の積み重ねが地域でも評価され、自然と依頼を頂くようになったのだと考えています。
社内以外にも”たすき”をつなぐ。
—御社に自然と在宅医療の相談や頼が来る理由は、とてもよくわかりました。「ひとつひとつの小さな活動の積み重ねが評価されている」とのことですが、何か具体的に評価されている取り組みなどがあれば、教えてください。
例えば弊社では、在宅医療で伺った患者様専用のカタログを作成しています。これは、在宅医療で患者様の御宅を伺った際、10-15分の血圧測定・酸素濃度の測定をしながら患者様と会話をするのですが、その際にその患者様が必要としているものや、必要と考えられる商品を発見し、その商品の案内をカタログに日々差し込んで行きます。このカタログがあることで、患者様のご家族が、何を用意したら良いのかがわかり、非常に好評をいただいています。
また、SOAP方式による薬歴作成制度の導入で、円滑な投薬・服薬指導をできるようにしていることが評価されていると思います。
私は常々「薬歴をストーリーにせよ」と社員に伝えています。これは、患者様を担当する薬剤師以外の薬剤師がその患者への投薬・服薬指導をする際に、「どのような薬が投与され、どこで管理され、その後どのような効果があったか。何に気をつけなければいけないか」ということまでがわかりるように薬歴を作成せよ、というメッセージです。また、指示だけでなく、もともと看護の領域にあった、「Subject:主観的データ」・「Object:客観的データ」・「Assesment:主観/客観データに対する評価」・「Plan:具体的な治療方針」を記入するSOAP方式を薬歴記入に取り入れました。
これにより、仮に担当が何かの事情で変わったとしても、適切かつ迅速な服薬指導を行うことができるようになり、患者様の不安を軽減することができます。また、在宅医療を共に行う医師や看護師、ケアマネージャーの信頼にも繋がっています。
このように弊社では、社外の方々にも患者様の健康増進・改善につながるたすきを渡して行くようなことに取り組んでおり、それが評価頂けていると感じています。
「誰が」「どんな思い」で仕事に取り組むかが、全て。
—ありがとうございます。御社がさらに在宅医療サービスを拡充し、地域医療への貢献を目指していくにあたり、三好社長が考えている方針やお考えがあれば教えてください。
私は、常に薬局の財産は「人」だと考えています。薬局が「対物業務から対人業務に変化していくべき」と言われている中、この考えはより重要になってくると思います。特に在宅の場合は、薬の専門知識は当然のこと必要ですが、それよりも患者様のことを心から思い、何に悩んでいるのかに思いを巡らすことや、患者様から「いなくてはならない存在」と言われるほどの信頼を頂くことの方がはるかに重要になってきます。薬の効能云々ではなく、薬剤師の「人間性」が問われているわけです。ですので、「誰が」「どんな思い」で取り組むかが、そのまま当社の評価に繋がってきます。この点を忘れずに、社員一人一人が、しっかりと使命感を持って患者様にベクトルを向けるようになる、そんな環境を会社として作っていくことが当面の私の方針です。
三好幸利(みよしゆきとし)
昭和31年東京都生まれ。実父が創業した化粧品・サプリメント販売会社の経営に長年携わる。その延長で、様々な医師や医療機関の関係者と関わるようになり、「より人のためになる事業をしたい」と決意し、2000年に株式会社メディックを設立。調剤をメインとした薬局を6店舗まで拡大し、現在は、トータルで地域の健康をサポートできるように、在宅医療支援、サプリメント通販、認知症カフェの経営など、幅広い事業を展開。日夜、地域に住む患者様の健康保全・増進に貢献するべく、新しい挑戦を続けている。
【企業プロフィール】
企業名 | 株式会社メディック |
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設立 |
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資本金 | 1000万円 |
従業員数 | 38名(薬剤師26名・事務12名) |
事業所 | 東京都 |
会社URL | http://nikoniko-pharmacy.com/ |